借金のカタに取られた元カノの話
この間、家に一枚のハガキが届いた。
それで昔のコトを思い出した。
イロイロあったんで書いてみたい。
高校卒業以来、疎遠になっていた実家に帰ったことから始まった話。
事情があってフェイク入りだけど許して欲しい。
当時のスペック
オレ 30前、会社員、独身
ユキ 同級生、元カノ、既婚
コウジ 同級生、悪友、会社員、独身
一人ボーっとしてると電話が鳴る。兄は仕事があるからとさっさと帰って行ったし
元々母はいない。しかたなく出てみると……元悪友の吉田コウジだった。
コウジ「よお! カズ! 久しぶりだな!」
オレ 「ああ、そうだな」
コウジ「お前、今日来れるか?」
オレ 「いきなり何の話だよ?」
コウジ「あれっ? ハガキを送ったろ? 同窓会の?」
オレ 「知らねーな。つーか、今日は親父の葬儀でたまたま帰ってきてただけだ。
だから、これから家に戻る予定だ」
まったく気乗りしなかったけど、しつこく言われて断るのが面倒になり、とりあえず会場へ。
ところが……受付を見てゲンナリ……そうじゃないかとは思ったけど……元カノだよ……
親父の転勤と兄貴の進学のせいで一人になったオレの世話をしてくれた子。
実際は彼女だけじゃなく、彼女の両親もオレのことを気に掛けて食事の世話をしてくれたり
家に泊めてくれたりしてた。
とはいえ彼女の家に居候するわけにはいかないんで、基本的には一人暮らし。
そして家の中のことは掃除、洗濯、食事の世話と家事一切を彼女がやってくれた。
そんな状態にもかかわらず、彼氏彼女になったのは高校に入ってから。
ユキ「あ……久しぶり……何年ぶり? かな……」
オレ「……げ、元気そうだな……」
ユキ「うん……」
気まずさ全開……絶対こうなるって思ったわ……だから来たくなかったんだ……くそっ!
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彼女とは家が近かったし、小さい頃から一緒に遊んでた。一番古い記憶はオレの母親の
葬儀の時だと思う。それが正しければオレが5歳の時だ。
その時のオレは死がどういうものかは正しく理解できてなかったけど、もう二度と母親に
会えなくなったことはなんとか理解していたと思う。
だから、親父にあやされようが兄貴に諭されようがびーびー泣いてた。
そこにユキがやってきた。
ユキ「カズくん泣かないで」
オレ「おがーぢゃーん、おがーぢゃーん、びーびーびー」
ユキ「もう、男の子が泣いちゃだめっ」
オレ「だって、だって、びーびーびー」
ユキ「これからはユキがね、カズくんのね、おかあさんになってあげる。
ご飯も作ってあげる。一緒に寝てあげる。だからもう泣かないで」
言葉は適当だけど、こんな内容のことを言われたような記憶がある。
彼女が憶えてるかどうか知らないけど。
実際彼女は、その日以降なにかとオレのことを気に掛けてくれていた。
何かあるとすぐに泣くオレをいつも庇ってくれた。
だからオレのために面倒な家事一切を引き受けてくれた彼女に対しても女性として
特別な感情はなかった。なんというか、おふくろのような姉のような……
要するに家族みたいな感じだったから彼女の前でも平気でパンツ一枚でウロウロしてたわけで……
高二の秋だったかな……
台風接近にもかかわらず彼女はいつものように晩飯を作りに来てくれた。
それを二人で食べた後、試験前の勉強を教えてもらうことに。当然、彼女の方が成績がいい。
ユキ「なんだか外が凄いことになってきてる……」
オレ「そーだな。さっきまでそうでもなかったのにな。今日、帰れるか?」
ユキ「ちょっと怖いかも……」
オレ「じゃ、泊まっていけよ。着替えはその辺になんかあるだろ?」
ユキ「……えっ……」
彼女のとまどった表情と声に気づかず、Tシャツとスウェットの上下をホイっと渡す。
オレ「風呂なら今のうちに入った方がいいぞ。停電したら面倒だし」
ユキ「……う、うん……」
外は暴風雨、古い家のサッシはピューピューと微妙に隙間風が入ってくるし、雨戸に
打ち付ける雨の音が凄い、しかもアンテナが揺れるのかテレビの画像が時々乱れて
なんか閉じ込められた感がいっぱいで、妙にワクワクする。
その時……
突然、家の中が真っ暗になった。停電だ。雷が落ちたわけじゃないから風でどこかの
電線でも切れたんだろう。雨戸が閉まっているから本当に真っ暗。近所の状況もわからん。
こりゃダメだ。もう、どうしようもないな……
妙に冷静になっていると風呂場から悲鳴が聞こえる。
ユキ「キャー、カズくーん! カズくーん! 怖いよぉー」
オレ「待ってろー、今、そっちに行くからー」
懐中電灯を探り当てて階段を下りる。慣れた家なのに真っ暗な階段は結構怖い。
手すりがないと踏み外しそうだ。風呂場では悲鳴が泣き声に変わっている。
早く行ってやらないとな。
脱衣場のドアを開け、声をかける。
オレ「ユキ、来てやったぞ」
そう言うと何も考えずに風呂のドアノブに手をかけ、扉を一気に開けようとしたら
中から思いもしなかった声がする……
ユキ「待って! ……恥ずかしい……」
オレ「へ?」
実はこの時、初めて彼女が年頃の女性だと気づいたわけで……
なんだか急にこっちまで恥ずかしくなってきた。
オレ「じ、じゃあ、か、懐中電灯をここに置いとくから……」
ユキ「あっ……行かないで……怖いから……」
オレ「ど、どーすりゃいいんだよ?」
ユキ「ぐっ……目をつむったまま、そこに居てよ……」
風呂場のドアが開いて人が出てくる気配がする。湯気が顔や手に当る感じがした。
後方1mのところに全裸の若い女性がいると思うと凄まじく緊張してきた。
そういえば一緒に風呂に入ったのは何年前だ? やっぱりあちこち成長してるのかな?
タオルで体を拭く音、下着を着ける音、パジャマ代わりのスウェットを着る音……
うー堪らん……音から状況を想像していたら下半身が固くなってきてしまった。
これまで彼女のことでこんなふうになるなんて一度もなかったのに……
ユキ「ふぅー、もういいよ。目を開けても」
オレ「お、おぅ……」
とりあえず目は開けたけど事情により彼女の方を向くことができない。わかるよな?
というわけで懐中電灯を受け取ると前かがみになりながら部屋まで戻ることに。
暗くて助かった……
部屋に戻ったものの相変わらず真っ暗。テレビが消えているせいで聞こえるのは
風の音と雨の音だけ。さっきのワクワク感は吹っ飛んで微妙に気まずい感じ。
オレ「……えーっと……どうしようもないから、もう寝る?」
ユキ「えっ?!」
オレ「へ、変な意味じゃないって。ユキは兄貴の部屋で寝るんだよ。
兄貴の部屋がイヤなら、こっちで寝ればいい。オレが向こうに行くから」
ユキ「……イヤなんかじゃない……」
オレ「そう。じゃ、コレ」
彼女に近づくと、明かりの点いたままの懐中電灯を彼女に渡す。
と……なぜか明かりが消えて真っ暗に……電池切れ?? じゃないよな??
ん?! 腕の辺りに暖かくて柔らかいものが静かに触れると同時に石鹸のいい匂いが……
こ、これは………………
ここから先は、説明するまでもないでしょう。お互い言葉を交わさないまま……
……はいそうです……そういう仲になりましたです……
ただね、一応、知識としてはあったんですが経験がなかった。彼女もそうでした。
だから上手くいかないわけでして……
真っ暗で場所もわからんが、まさかいきなり懐中電灯で照らすとか変態すぎてムリ。
とりあえずココか? いや違う、入らん、じゃココか?
なんて適当に突いてたらもう、あっという間に我慢の限界で……
ちゃんとできたのは心身ともに準備を整えた何日か後だったような気がします。
だったんですけど彼女の両親は黙認でした。
次男で幼馴染のオレは婿養子には適任とか考えていたんでしょうね。
実際、彼女のお母さんからはそんなことを言われましたし。
当時のオレも深いことは考えずに旅館の専務とかカッコいいじゃんとか気楽に考えてました。
今思うと、この辺りが人生の絶頂期だったと思います。
それまでも彼女の好意には甘えていたんですが、それとはちょっと違うんですよ。
うまく説明できませんが、心の癒しとでも言うんですかね。なんか安心できたんです。
だから……ずっと彼女と一緒にいたいなとか本気で考えてました……
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そんな二人が別れたのはお互いの気持ちじゃなかった。家の事情。
彼女の実家の旅館経営が苦しくなって地元有力者から融資を受けることになったんだが
そこのバカ息子が彼女に一目惚れしてしまい話がややこしい方向へ。
江戸時代じゃあるまいし、なんで借金のカタに娘を差し出さなきゃならんのだ??
と言ってもカネのない高校生の立ち回り先なんてすぐに割れるわけで3日と経たずに連れ戻された。
親父にはボコボコにぶん殴られて彼女の両親と地元有力者に土下座で謝罪……
当時の体格からいえば力で親父になんて負けるハズはなかったけど、その有力者が親父の勤める
会社の大得意だと聞かされたから黙って殴られた……高校生でもそのくらいの空気は読める。
結局その事件以来、オレは親父と二度と口を聞かないまま。
兄貴の話では親父の最後の言葉は『カズオ……すまない……』だったとか……
そんなことを聞かされた後で酒を飲んで騒ぐなんて気分になんてなれない。
だから一人ロビーに座って昔のことを思い出しながら感傷に浸ってた……
会場から持ってきた瓶ビールが3本目から4本目になった頃、懐かしい声が聞こえてくる。
>>ユキ「……ここに居たんだ……」
オレ「……ああ……親父のことを考えてた……」ウソです。ユキのこと考えてました。
ユキ「あっ……ごめんなさい……今日はお父さんの……」
オレ「いいって……無事終わったし……ただね……
兄貴から親父が最後にオレに謝ってたって聞かされてさ……」
ユキ「……そう……」
オレ「……」
それから二人で何も言わずに並んで座ってた。どのくらいの時間が経ったのか会場が
ザワザワし始める。どうやらお開きのよう。みんなに挨拶だけはしておこうと立ち上がると
ユキ「あの……連絡先だけでも交換しない?」
オレ「そ、そうだな……」
ユキ「……連絡してもいい?」
オレ「いつでもいいよ」
ただ並んで時間を過ごしただけ。でも、それだけで十分だった気がする。
彼女の姿が見れただけでなんだかホッとした。色々あったけど全て過去の出来事として
消化できそうな気もしてきた。
そしたら次からは笑って昔話ができるかも……ほんとか?
それから1ヶ月、いつもと変わらない生活が続く。
朝ギリギリに起きて朝食代わりの牛乳。昼は会社の自販機でパン。そして深夜までサビ残。
走って終電に乗ってコンビニで弁当と缶ビールを買うだけの毎日……まったくつまらん。
とはいってもFラン出身のオレなんかが氷河期に正社員の口にありつけただけ、ありがたい。
そう思ってブラック臭が漂う会社だけど、それなりに貢献しようと努力はしてるつもり……
ただ……つまらんのだわ。
ある意味、気楽でいいんですよ。給料は安いけど使うヒマがないからカネは勝手に貯まってくるし
趣味がないから欲しいモノもない。
でも、この瞬間にオレが死んでも誰も泣かないし誰も困らない。成功しても誰も喜ばない。
そう思うとなんかどうでもよくってね……
そんな日曜の夜に携帯が鳴った。こんな時間の電話は会社でのトラブル発生が多い。
独身で一人暮らしは動きやすいから休日とか深夜とか関係なく呼び出されるのだ。
タクシー代あったっけ?
とか考えながら携帯を見るとユキからの着信と表示されてる。
オレ「もしもし? どうした?」
ユキ「……別に……どうもしない……」
オレ「そうか……ちょっと驚いた。何かあったのかと思ったわ」
ユキ「……ただ……声が聞きたくなって……ぐすっ……」
オレ「もしかして、泣いてる? 何かあったのか?」
彼女はオレとは逆で守るものが重すぎて辛いらしい。
自分の意思ではない結婚……しかも破綻状態にもかかわらず解消できない関係。
それは旅館経営のため、従業員のため、その家族のため……
今、自分が居なくなるとその全てが崩れ去ることが分かっているから……
長い時間、話をしたけど結論なんて出るハズもない。同じところをグルグル廻るだけ。
それでもよかった。つき合ってた頃だっていつも内容のある話をしていたわけじゃない。
同じように結論のない話をしていただけ……楽しいか楽しくないかの違い……
そんな感じで特に約束したわけじゃないけど毎週日曜の深夜に電話を掛け合うようになった。
最初の電話はちょっと重かったけど、その後はどちらかというと世間話の中にお互いの
近況が少し混じる感じ。内容なんてどうでもよかったから……声さえ聞ければ。
何回かの電話で分かったのは、彼女の結婚生活が初めから成り立っていなかったこと。
戸籍上は本妻だけど実際は愛人扱いだったらしい。それに反発した彼女は家に帰ることなく
旅館の一室で生活していて家では旦那が愛人とその子供と生活していたそうな。
なんということ……金持ちならなんでも許されるのかよ……なんだか悔しい。
そんなことが分かったある日曜の夜、彼女との電話を終えて眠ったオレは夢を見た。
これまで何度も何度も繰り返して見る夢……彼女との別れの朝のこと……
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初心者マークを貼ったレンタカーに荷物を積んでいると彼女が走ってきた。
ユキ「ハァハァハァ……どうして……黙って行っちゃうの……?」
オレ「……」
何か言おうと思ったけど言葉が出なかった。
駆け落ち事件以来、オレは彼女との一切のコンタクトを禁止されてた。
だから進学で街を出ることになったこともオレからは伝えてない。
無言で黙々と積み込み作業を進めるオレをみて彼女も無言で手伝ってくれた。
やる気のなさが荷物にも現れているようで、こんなんで生活できるのか?
というくらい少ない荷物。だから作業なんてあっという間。
ユキ「……もう行くの?」
オレ「ああ……」
ユキ「……じゃあ……これ……」
運転席に座るオレに彼女は小さな紙袋を手渡す。
中を見ると見慣れた包み……彼女の手作り弁当……これまでは当然のように受け取って
何も考えずに食べてたけど、それも今回で最後だと思うと涙が出そうになった。
彼女はというと目に涙をいっぱいに浮かべながら必死で笑顔を作っていて
その表情は言葉では言い表せないくらい切なかった……
オレ「いつも、ありがとう……」
ユキ「いつでもいいから……お弁当箱……」
これが最後とは考えたくなかったから、オレはわざと「いつも」と言ってみた。
彼女も同じ気持ちだったのか「いつでも」と答えてくれた。
いよいよお別れ。
もう二度と会うことはないだろうと思いながらエンジンキーを捻る。
二人の気持ちがわかるのか車は咳き込むばかりで始動しない……何度も試すけど動く
気配がない……いっそこのまま……とか考え始めたら彼女が窓越しにオレの首に
抱きついてきた……
ユキ「……お願い……私も※※※※」
ブルルルーン……エンジン始動……
彼女の言葉の後半はエンジン音に掻き消された……
聞こえなかったけど内容は想像がつく。直接この耳で聞かなくてよかったと思った。
もし聞いてしまったら自分を抑えられなくなっていたと思うから。
オレは黙って彼女の手を解くと前を見据えたまま車を進める。
ゆっくりと動き始めた車のサイドミラーを覗くと泣き崩れて地面に座り込む
彼女の姿が映っていた……そしてそれがどんどん小さくなっていく……
号泣状態で叫びながらハンドルを握るオレ……
「ウォォォォーーーー!!!」
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いつもここで目が覚める。
なぜかと言うと……眠っているハズなのに実際に泣き叫んでしまうから……
あの時、どうして彼女を連れ去らなかったんだろう……そればかり考える……
その後の行動はいつも一緒。
ほとんど物のない部屋にポツンと置かれた小さなカラーボックス。
部屋の中で唯一、モノを飾ることができるスペースには例の弁当箱が引越し当初から
ずっと置いてある。オレは心が折れそうになると、その弁当箱を眺めるクセが
ついてしまった。女々しい男だと思う……
そして眠れないまま朝が来て、いつものようにつまらない一日が始まる……
しばらくすると続いていた彼女との深夜の電話が滞るようになる。
こういうのは一度詰まると後がやりにくい。彼女から電話があると思っていた時にないと
次にこちらから電話しにくい。そして、その次にも電話がなければもうこちらから掛ける
ことは難しい。なんといっても彼女は人妻だから……
内心すごく気になるんだけど、どうしようもない。
ひょっとしたら旦那と和解してうまくいっているのかもしれないし。
「出張でそっちに行くから一緒に飲もう」という内容。
「深夜スタートになるぞ」とだけ返信しておいた。
コウジの出張当日。
夜の10時を過ぎたくらいに電話が着信。オレはまだ会社にいた。
コウジ「よお~、カズ! 今から大丈夫かぁ?」能天気な声。もう飲んでるな?
オレ「いいぞ。って、いったいお前は今どこにいるんだよ?」
意外に近くのホテルを予約していることがわかったから、とりあえず田舎者の酔っ払いに
ウロウロされるよりはオレが動いた方がいいと思って既にできあがっているコウジとホテル
近くの居酒屋へ繰り出すことに。
同窓会以来といっても、その日はほとんど一緒にいなかったから何年ぶりになるんだろう。
卒業後に1度くらい飲んだことがあったような気がするが気のせいかもしれない。
サラリーマンらしく仕事の愚痴から始まりそのうち話題は……
コウジ「その後、彼女と連絡は取ってるのか?」
オレ 「誰のことを言ってる?」
コウジ「決まってるだろ? ユキちゃんだよ」
オレ 「ああ……まあな……」
コウジ「……そうか……実はな……俺、彼女に告白したことがあるんだわ……」
オレ 「はぁ!?」
酔った勢いなのか突然のカミングアウトに驚いたわ。
コイツとは中学以来ずっとつるんできたのに全く知らなかった。
コウジによると彼女がオレの身の回りの世話をし始めた中二の頃に告白したらしい。
そこで告白しなければ彼女はすぐにでもオレと付き合うことになると思ったからだとか……
実際は、そこから2年以上掛かったんだけどな……
別に聞きたくもない話なんだが、告白時の状況を披露してくれたよ。
季節は夏、場所は放課後の体育館裏だとか……
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コウジ「……ユキちゃん……呼び出したりしてごめん……」
ユキ「いいよ。何か用事? カズくんがどうとか…って聞いたけど?」
コウジ「……ごめん……そうじゃなくって……」
ユキ「?」
コウジ「……俺……ユキちゃんのことが……す、好きなんだ……」
ユキ「??」
コウジ「ユキちゃんがカズを好きなことは、わかってるけど……ダメかな……」
ユキ「……ごめんなさい……」
コウジ「……やっぱりダメか……いいんだ、これでスッキリしたから……
これからは俺も応援するからなっ!」
ユキ「……応援してくれるんだ……ありがとう……だったら……
ひとつお願いがあるの……言いにくいんだけど……今日のことはカズくんには
内緒にして欲しい……彼がこのことを知ったら……たぶん……一生、私とは
付き合ってくれないと思うから……ごめんなさい……」
~~~~~
という状況だったらしい。
オレ「で、いったいお前はオレに何が言いたいんだ?」
コウジ「だから、その頃から彼女はお前に惚れていたというわけだ」
オレ「そうかい。そりゃありがたいね……って、今さらそれを聞いてオレにどうしろと?
間男になって、たんまり慰謝料を払えってか?」
コウジ「そうは言ってないが……」
オレ「だったら黙ってろ。というかお前こそ彼女にまだ未練があるんじゃねーのか?」
コウジ「……」
おいおい、ビンゴかよ……勘弁してくれ……彼女の重い状況に加えて旧友の大マジな
恋心まで聞かされちゃかなわん。
そういえば、コイツは進学を口実に逃げたオレとは違って卒業後も地元に残って
いたわけで……そして同窓会とかなんだかんだで彼女を支えてたんだよな……
オレ 「……コウジよ……お前が彼女を助けてやれ……オレにはムリだわ……」
コウジ「……」
オレ 「お前、オレよりも成績が良かったのに地元の大学に行って地元の会社に勤めたんだろ?
それって、そういうことじゃないのか? 彼女を見守るためじゃないのか?」
コウジ「……」
オレ 「オレは……逃げたんだよ……だから今さら……」
コウジ「……悪い……帰るわ……」
20代でこんなに孤独だったら、40代、50代、いや60歳になって会社にもいられなく
なったらどうなるんだ? 本当に世界中で自分のことを少しでも考えてくれる人が一人も
いなくなるのか?? とか思うと本格的に欝になってきた……
そして、約半年が過ぎた日曜の午後……家でゴロゴロしているオレに着信。
ディスプレイはユキと表示している。
めちゃめちゃ久しぶりだけど、できるだけ普通に話すことにした。
オレ「もしもし? どうした?」
ユキ「カズくん……今、何してる?」
オレ「なんにもしてない」
ユキ「よかった……あのね……へへへ、来ちゃった」
オレ「へ? 来ちゃったって、まさかこっちに?」
ユキ「……へへへ……」
文字にするとラブラブに見えるけど、実際は涙声だった。
なんだか切羽詰ってる感じがして、ちょっと心配。
オレ「じゃあ、すぐに準備するから、どこかで待ち合わせしよう」
ユキ「……いい、私がそっちに行くから……カズくんのところに行きたい……」
オレ「そ、そうなんだ……別に構わないけど……汚いよ」
ユキ「わかってる」
着いてしまう。さすがに駅までは迎えに行かないといけないから、オレに残された時間は
残り15分。
妙なフィギュアや抱き枕なんて趣味はないから隠さないと人格が崩壊するようなブツはない。
元々モノが少ない部屋だから片付けに手間はかからない。エロ系資産はないことはないけど
探さなければ見つからないだろう。プライオリティは、まず身支度。次にゴミの始末、そして換気。
あちらこちらに埃が積もっているのは……見なかったことにしよう。
笑いながらピョンピョン跳ねて手を振る姿が懐かしい。
さっきの心配は気のせいか? なんて思いながら付き合っていた頃もこんな風だったっけとか
回想シーンが頭をよぎる。
オレ「ようこそおいでくださいました」
彼女が仕事で言いそうな台詞を言ってみた。
ユキ「お辞儀の角度が甘いわね」
プロの厳しい指摘だ。
オレ「久しぶりに自転車の後ろに乗ってみる?」
ユキ「あの頃に比べると、ちょっとだけ重くなってるけど大丈夫かな?」
オレ「どんなに重くても平気だよ。家までずっと下りだからね」
ユキ「もうっ!」
毎朝晩に通勤で通る道だけど、彼女が後ろに座ると風景が違って見える。
高校の通学路を走っているような気がする。あの頃も部活が終わると彼女が校門で
待っていて同じように二人乗りで坂を下って帰ったんだよな。
ユキ「ねぇ、カズくん。ちょっと太らない? この辺りとか? ふふふっ」
そう言うとオレの腰辺りの余った肉をつまむ。
オレ「くすぐったいってば。そりゃ、18才の頃の引き締まった肉体と比べたら
劣化は否定できないさ。でも、オレなんてまだマシな方だと思うけどね。
なんなら後で全部披露するぞ」
ユキ「もうぅ、バカっ!///」
そう言いながら背中にぎゅーっと、へばりつく彼女。おっけーのサインなのか?
途中でコンビニへ寄って適当に買い物をしてから自宅に到着。
コンビニのバイトがジロジロとオレを見てた。コイツ、オレが晩飯の弁当を買う深夜に
いつもレジにいる奴だ。ざまあみろ、オレだって女連れのことくらいあるのだ。
さて、オレ邸は2階建て安アパートの2階。階段が鉄製で歩くとカンカン音がする建物。
6畳相当のワンルーム、というか本物の和室6畳。ボロ。
まともなキッチンというか台所はないけど料理なんてしないから不自由はない。
食事はオール外食 or コンビニ。それで運動しないから太ってくるというか腹周りだけ
肉がついてくるわけだ。
オレ「ようこそ、我が家へ」
玄関のドアを開けて彼女を迎え入れる。にわかに片付けた感いっぱいの部屋。
ユキ「へぇー、一応きれいに片付いて……というか殺風景な部屋ね……」
オレ「寝るだけだからな。飾ったって仕方ないしさ」
彼女は懐かしい写真を何枚か持ってきてた。二人が付き合っていた頃のもの。
いつ撮ったのか覚えていないものも混じっている。
二人で照れながら笑っている写真は他に撮影者がいたハズ。
ユキ「あっ、その写真……吉田くんが撮ってくれたのよね……
私がお願いしたんだ。カズくんとのツーショット写真が欲しいって。
まだ付き合う前だったけど覚えてない?」
コウジの名前がでてきて、それまでのフワフワした気分が一気に硬直する。
こんなことしてていいのか……? オレ……
オレ「……あのさ、ひょっとして毎年開催してる同窓会って、コウジの企画か?」
ユキ「そう……今年で何回目だったかな……今年こそは、カズくんが来るかなって
言いながら毎年企画してたけど。何度か実家にも電話したみたいよ……」
オレ「……そっか……」
ユキ「誤解しないで、吉田くんは私のこと……私とカズくんのことを応援して
くれてるだけで……私のことなんて、なんとも思ってないから……
だから今日だって吉田くんが行って来いって言ったから……」
彼女のことが今でも好きなんだ……自分の気持ちを隠して……素直じゃない奴め。
オレは、あの朝にキッパリと諦めたんだ。そんなオレが今さら彼女をどうこうしよう
なんて都合のいいこと考えちゃいけない。
オレ「……ユキ……送って行くよ。まだ帰る電車あるよな……」
ユキ「えっ? どうしたの? 突然……私、何か気に障ること言った?
もしそうなら謝るから……謝るから、そんなこと言わないで欲しい……」
みるみる彼女の顔が曇っていく。というかもう泣き始めてる。
でも泣かれても困る。男の友情とはそういうものだ。悪友の20年越し?にもなる
恋心を踏み台にして、その女とイチャイチャなんてできんのだ。
わけもわからずオロオロと泣く彼女を追い立てるように家を出る。
そして無言のままで引きずるように駅まで連れて行くと目的地までの切符を買って渡す。
オレ「じゃ、コウジによろしく言ってくれ。あいつにはオレから後で電話しておく」
ユキ「あっ……違う、違うの――」
彼女の返事を最後まで聞かずに来た道を逃げるように引き返すオレ。
雨でもないのに顔がグチャグチャに濡れている。目からも鼻からも水が出ているせいだ。
自宅に帰ってコウジに連絡しようと思ったけど気持ちが昂ぶっていてまともに
話ができそうにない。シャワーでも浴びて落ち着こう……
熱いシャワーを浴びると気分も少しは落ち着いたような気がした。
さて、電話しようと携帯を手に取ると尋常じゃない着信履歴が残っている。
1、2、3、4、5、6……シャワーの間の僅か数分に10本を超える着歴。
しかも、相手は全部コウジだし。
なんなんだ?! これは??
と思っているところに、また着信。コウジだ。
オレ「はいよ。なんだよバカみたいに何回も――」
コウジ「ばかやろー!!! てめーぶっ殺すぞ!!!」
オレ「んだぁー? てめー! 喧嘩売ってるのかぁ?
上等だ、買ってやろーじゃねーか! あぁ?」
コウジ「お、お前は……ゆ、ユキちゃんになんてことを……」
オレ 「……うっ……そのことなら今お前に電話しようと思ってたところだ……
その……なんだ……彼女を幸せにしてやれ。オレよりお前がお似合いだ」
コウジ「カズよ……だからお前はバカなんだ……なんで彼女の気持ちが分からねーかな……
いつだってそうだ、勝手に一人で決めて勝手に動いちまう……
彼女に聞けよ。オレに相談しろよ。少しは人の気持ちを考えろよ……」
オレ 「……うるさいっ! オレはオレなりに考えた結果だっ!
お前は、ずっと彼女を傍で支えてきた。オレは卒業してから彼女のことなんか
すっかり忘れていた。そういうことだ」
少しウソをついた。本当は忘れたことなんてなかったから……
コウジ「……じゃあ、彼女の気持ちはどうなるんだ……? 彼女はお前をずっと……」
オレ 「“待っていた”なんて言うなよ。彼女は結婚したんだからな」
コウジ「……てめぇ……彼女が結婚後どんな気持ちだったのか聞いてないのか?」
オレ 「聞いてないね。というか聞きたくもないね」
コウジ「……まず最初に言っておくぞ。彼女は旦那と正式に別れた。先月の話しだ。
それからな……」
というか聞くのが辛かったから……彼女の結婚後数年にも渡る内容をそれだけ詳細に
説明できるお前はスゴイよ。どれだけ長い時間、彼女と一緒にいたかがわかるってもんだ。
いつの頃からか彼女の大切な人はコウジに変わったんだ。お互い気づいてないだけで……
奴がいたから彼女はこれまで耐えることができたハズだ。そして決心もできたんだ。
だから今、彼女に必要なのはオレなんかじゃない……オレはただのきっかけ……
オレ 「いいかコウジよ……さっき駅でオレと別れた彼女が最初に電話をした相手は誰だ?
オレか? 違うだろ? お前だよな。そういうことなんだよ」
コウジ「……カズ……お前はそれでいいのか?」
オレ 「ああ……言ったろ? オレはあの時に彼女をキッパリと諦めたんだよ」
・
・
・
それから何ヶ月かして、仕事から戻ったオレは郵便受けに1枚のハガキを見つけた。
『私たち結婚しました』という写真入りのアレ。
そこに写っていたのは……コウジ……隣には……ユキだった。
満面の笑みで幸せそうな二人……写真の下には見覚えのある文字……
「カズくん、ありがとう。お元気で」
***** 終わり *****
>>1乙
いい話だった
最後にまた逃げてしまったのは残念だったよ
次は3人で笑ってる写真を撮ってくれ
クズですいません。
でも、何年ものブランクありで彼女と一緒になってもうまくいかないと思いました。
オレが彼女と付き合ってた時間よ奴の方が長い時間一緒にいたわけですし。
彼女の中のオレは行動力があって、おもしろくて、いい奴なんです。
今は違ってますから……
俺も同じくらいの歳だが身を引けるってのはすげぇよ。
でも、俺はこの人だけはってなったら引きたくないわ
これで引っ掛かってたことを吐き出すことができました。
明日からは、もうちょっと頑張ってみようかと思います。
ありがとうございました。
1は幸せになってほしいな!