893を騙ったら、相手が本物の893だった。横暴な友人への復讐だったが、家凸され、現れた本物を見て『殺される』と思った…

引っ越した。
中学には勿論知り合いなんかいない。でもノリが良くてすぐに打ち解けることが出来た。

40人くらいのクラスだったけど、番長として君臨していたのが絵に書いた様なジャイアン。
ガタイは良いし喧嘩っ早い。
野球好きの、永久借用がデフォルト。
珍しい物を見つけたら「それ貸せよ」。やりたくもない野球して、エラーをしたらぶん殴る。

中学１年にして
ヤンチャのカリスマみたいな奴だった。
ある日、学校でエアーガンが流行っていた時のこと。
皆は球を一発一発入れては打つというお子様エアーガンに対して、自分は兄貴の持ってるホップアップ機能の付いたガスガンを持っていった。
学校の裏山でサバゲーばりに遊んでいたら何度も負けるジャイアンがキレた。

「おい、そのガスガン貸せ。」
「嫌だ！兄貴のだから嫌だ！」
「うるせぇ！都会出身だからって調子乗りやがって！ゴッチーン！」

ガスガン奪われてしまった。
悔しくて悔しくて家に帰って兄貴に泣きながら相談したら、兄貴が

「よし、任せろ！」

とある作戦を立てた。

次の日、学校に大きいバンドエイドを顎に貼って登校。

ジャイアンが学校にきたらすぐに駆け寄り、懇願する。

「お願いだから昨日のガスガン返してくれ！」
「ダメだ。当分借りる。」
「あれ兄貴が親父から貰ったものなんだ。返さないと親父に殴られるんだ。昨日も顎殴られて」
「何でそれぐらいで親父がお前を殴るんだよ」
「うち、親父がヤクザで‥。兄貴に拳銃打つ練習を今からしとけってあのガスガンを渡したのに、俺がガスガン貸しちゃったから親父カンカンで」
「えぇ？お前の家そうなの！？
山○ってそっち系の名字だったの？分かったよ、学校から帰ったら返す」

名字は偶然日本一の暴力団系と一緒。
こんな田舎の中学生なら一発でビビってもう絡んでも来ないだろうと私立に通う兄貴の入れ知恵だった。

効果は絶大。
放課後家に帰ったら電話する。と、ジャイアンが言うのでウキウキしながら電話を待つ。
この作戦のミソはここにあった。

家の電話がなる。
ジャイアンだ。兄貴が出る。

「お前がジャイアンかコラ！
何うちの倅のチャカ奪っとんのじゃワレこら殺すぞ！」

と、ヤクザ映画で見た口調を真似してがんばって電話で凄んでいた。
自分ら兄弟としてはジャイアンがこれにビビって２度と物を取らなくなる設定だったのに、突然向こうの親が電話口に出た。

兄貴の話だと向こうの親御さんは

「息子がガスガンや今までに取ったものは全部お返しします。申し訳ありませんでした。息子の愚行に気づけなかった私の責任です。
子供にもよく言い聞かせます。
しかし、子供が友達にオモチャを奪われて自分の子供を殴るとはどういう了見でしょうか？
とにかく今からそちらに伺います」と言って電話を切ってしまった。

想定外の事に兄貴は

「え？その、あ、はい」

と、しどろもどろになって何も答えられないでいた。
さぁ、もう大変である。
子供同士の喧嘩では済まなくなった。
ジャイアンの家はどこか知らないけど多分そんなかからない。

意を決して夕食作ってる母ちゃんにビクビクしながら打ち明けた。
ものの数秒で兄弟揃ってビンタされたが、すぐに離れにある親父の仕事場に電話をして親父も登場。

親父は殴らなかったものの、
「そういう有りもしない権力をチラつかせて人を脅すのは、人としてクズだ」
と言われてダラダラ涙を流した。

もう先方も家を出てしまっただろうしうちで待って謝ろう。と、応接間で家族四人で待っていた。

親父が
「相手はなんて名前だ？」
と聞いてきたので、
「◯◯←ジャイアンの名字」
と、教えたら

「お前はまたやっかいな所に」

と、苦笑いした。
そうこうしているうちに、家の前に車が止まる音がしてインターフォンが鳴った。

うちの母ちゃんが玄関を開けると、デカイ男２人と角刈りの初老の男性、そして泣きべそをかいているジャイアンがいた。

一目で分かる、ジャイアンの家がガチヤクザ一家だ。

応接間に通された初老の男性とジャイアン。
まず、今まで取られたオモチャ達を返してジャイアンが三つ折り付いて謝った。
その後に初老の男性も深々とお辞儀。

「子供がやったことと言い、今回は大変申し訳ありませんでした」

一連の動向を自分と兄貴と母親はビクつきながら見ていた。
兄貴なんて一目見て殺されると思ったらしい。軽く泣いていた。

うちの親父は

「いやいや、うちの息子達も本当に馬鹿な事をして。申し訳ありませんでした。」
と、深々謝ったので自分ら兄弟と母親も一緒に頭を下げた。

初老の男性は

「発端はうちですから。息子がこんな恥ずかしい事をしていたとは。本当申し訳ありません。ただね、息子の話だとうちの息子におもちゃの拳銃取られたのに、取られた奴をぶん殴る輩だって聞いたんで、ちょっと警戒してたんですよ。それでいざお宅に伺ったら先生の家だから驚きましたよ」

うちの親父は設計士やってるんだが、どうやらこのジャイアン父の別荘だかを設計してる途中だとかで面識があるらしい。

家庭に仕事を一切持って来ない人だったから母親もそんな人達の仕事を請け負ってるとは知らず、ジャイアン父が来た時は人生が終わったと思ったらしい。

ジャイアン一家はそこの地方を納める結構でかい方々で家に監視カメラがいくつついてんだ。みたいな家と知ったのは後の話。

そこからジャイアン親子とうちの家族ではたまに食事をする間柄でいまでもたまに連絡を取り合う。

嘘から出た真ではないけど、
まさか相手側がモノホンとは夢にも思わず人生で１番焦った中一の夏の事件。

別にそこの系統だからって山○って名字じゃないだろｗ
山○家が継いでる訳じゃねえｗ
てかジャイアン、親同士揉めたら面倒だから返すって言ったのか

あと、三つ折りは付かねえ