昔の職場に、すごいイケメン(以下A)がいた。
髪は軽くウェーブしてて、切れ長で涼しげな眼もとで、イケメンオーラ出まくりだった。素顔で少女マンガの主人公が出来そうだった。
当然すごくモテたんだけど、モテすぎたためか特定の彼女はおらず、不特定多数の女性とデートしていたようだ。
女性社員にも、Aとデートしたことのある女性は何人もいた。
Aは男女問わず人気があり、Aの仕事は周りの人が「任せて」と引き取っていき、Aはあまり仕事をしていなかった。
「あれってどうなの」と仲のいい同僚にこぼしたことがあるけど、「Aはああいう人だから」で流された。
一度、Aと二人で客先に行ったことがある。その帰り道に、Aに誘われて二人でランチした。
会計の時、Aは当たり前の顔で、請求書を私に持たせ、自分は支払いせずに店を出て行こうとした。
「Aさん、お会計!」
と声をかけたら、すごく驚いた顔で振り返った。どうも、私のおごりだと思っていたらしい。
「Aさん!」
ともう一度強く声をかけると、露骨に不満そうな顔で自分の分を払った。
Aのデート相手の女性はいつもAの分をおごっていたのかもしれないが、私にはAの分まで払う義理はない。
二年後、色々あって私は転職した。
それから十年後、偶然、趣味の社会人サークル(大きい)の飲み会でAに再会した。
Aの方から、「もしかして、(私)さん? 久しぶり」と声をかけられた。
Aは、40前のはずだけど、すごく老けていた。
そりゃあ私だって人の事は言えないが、Aは、何ていうか、子供のまま年寄りになったような、バランスの悪い年の取り方をしていた。
顔は幼いのに肌は加齢でたるんでいて、服装もカジュアルではなくだらしない感じ、若いころはふわっとしたウェービーヘアだったのに、今はただの手入れしていない髪型に見える。
声を掛けられなかったら、Aだと気がつかなかったと思う。
Aの友人らしき人が「Aが若いころすごくモテたって本当?」
私が答えるより先にAが「本当だって。(私)さんともつきあってたことあるよな」
「いや、私、Aさんと付き合ったことはないですし、好きだったこともないですよ」
と正直に答えたら、A友は笑って
「だよなー。お前がそんなにモテるわけないじゃんw」
悪意があるのではなく、友人同士のじゃれあいのような言い方だった。
Aはムキになって
「俺とデートしただろ! 割り勘させられて驚いたから、覚えてるぞ!」
「あー、お客さんのところに行った帰りに、一緒にランチしたことですか? おごられて当たり前って態度を取られて、私も驚きましたよ」
「俺、職場の女性の何人もと付き合ってたんだけど。知ってるだろ」
「いや、聞いたことないです。」
Aと話した感じでは、どうも、一緒に飲みにいったり食事に行ったりしたら彼女認定していたらしい。
A友人が笑いながら
「Aは、昔はモテまくりで、彼女をとっかえひっかえってよく言うんだけど、やっぱりネタだったな」
「本当のことを言ってくれよ! 俺、モテてただろ」
昔のAがすごくモテてたのは事実だ。でも、勝手に彼女認定されていたのと、詰問口調で怒りながら言われてイラっとしたので
「Aさんと付き合ったことのある女性の話は、聞いたことがないです。」とだけ言っておいた。
一度ランチしただけで人を元カノ呼ばわりするAがずうずうしい。
その男モテてた割に今でも独身っぽいな。報告者への「俺、昔モテてたよな?」が必死すぎてワロタ!