妻「お帰りなさい……」ベットリ
夫「うわっ!?」
妻「助けて……」ベットリ
夫「なんで顔面にゴキブリホイホイがくっついてるんだ!?」
妻「説明は後でするから……早く助けて……」ベットリ
夫「分かった! すぐひっぺがしてやる!」
夫「一から説明してくれ。どうしてこんなことになったんだ?」
妻「このところ、家にゴキブリがよく出るようになったの」
夫「暖かくなってきたからなぁ」
妻「で、ゴキブリ対策グッズを買いに近くのドラッグストアに行ったの」
妻「だけど、お店のポイントカードを忘れたことに気づいて」
妻「しばらく悩んだ末、家に取りに戻ったの」
夫「とりあえずゴキブリホイホイ買うまでの話は省いていいや」
夫「うん」
妻「ゴキブリホイホイの匂いって案外いい匂いだなと思って……」
夫「うん?」
妻「顔を近づけて匂いを嗅いでしまったの」
夫「んん?」
妻「そしたら引っかかっちゃったの」
夫「悪い、まるで意味が分からん」
1.ゴキブリが出たのでゴキブリホイホイを買った
2.ゴキブリホイホイがいい匂いだと気づいた
3.顔を近づけて嗅いでみた
4.引っかかった
夫「ごめん、分かりやすくまとめられてもどうしても2から4の流れが理解できんわ……」
夫「どれ……」クンクン
夫「くっせえ! これのどこがいい匂いなんだ!?」
妻「いい匂いに思えない?」
夫「俺にはとても思えないな……」
妻「目玉焼きには醤油かソースか抗争みたいになってきたわね」
夫「いや、こればかりは絶対そっちが少数派だと思う」
妻「!」カチン
妻「なによ! 失礼しちゃう!」プンプン
妻「妻をよりによってゴキブリの生まれ変わり呼ばわりだなんて……!」
夫「冗談だよ、ごめんごめん」
妻「せめて、正体がゴキブリっていってよね!」
夫「そっちの方がひどくねえかな」
夫「仮の話とはいえ、よく自分をゴキブリ扱いできるな」
妻「仮の話なら安いもんよ。私がゴキブリだとしたら、どうしてあなたと結婚したんだと思う?」
夫「鶴の恩返しならぬ、ゴキブリの恩返しってやつかな」
妻「あなた、ゴキブリを助けたことあるの?」
夫「いや、ないけど」
妻「ないの!? じゃあ私、なんのために結婚したのよ!」
夫「仮の話で怒らないでくれよ!」
妻「鶴の恩返しもそうだし、傘地蔵や舌切り雀なんかもそんな感じよね」
夫「今はみんな自分のことで精一杯で、人を助けたり、恩返ししたりなんてなかなかないよな」
妻「下手に誰かを助けようとしたら、かえって迷惑がられたり……なんてケースもあるしね」
夫「世の中すさんじまったなぁ……」
妻「助け合いなんて不要な世の中になっちゃったのかもね」
夫「……」
妻「……」
夫「よし、話をゴキブリホイホイに戻そう!」
妻「異議なし!」
妻「だけどあなただって、ゴキブリっぽいところあるじゃない」
夫「あるか? 色白だし、打たれ弱いし、動きは遅いし……」
妻「あら、早いじゃない」
夫「なにが?」
妻「すぐイッちゃうくせに」
夫「おいやめろ」
夫「アース製薬に? マジでやるのか?」
妻「うん、もしかしたら賠償金貰えるかもしれないし!」
夫「よし、さっそく俺が電話してやる! こういうのは男がやった方がいいだろ!」
妻「お願い!」
夫「任せとけ!」
夫『妻がゴキブリホイホイに引っかかったんだが、どうしてくれるんだ!』
夫「――だな!」
妻「うん!」
夫「……」
妻「……」
夫「やっぱやめようか」
妻「うん……万が一お金が手に入ることになっても、人としての尊厳を失っちゃう気がするわ……」
妻「ブラックキャップ?」
夫「これもゴキブリホイホイみたく設置するタイプなんだけど」
夫「ブラックキャップに仕込まれた餌を食べたゴキブリが巣に戻って、毒素をばら撒いて」
夫「ゴキブリを巣ごと根こそぎ駆除するっていうやつなんだ」
妻「へえ、すごい!」
夫「これがマジで効くみたいで、何個か置いておくと本当にいなくなるらしいぞ」
妻「あなたってアース製薬の回し者?」
夫「違うけど、そう思われても仕方ないな」
夫「いきなり電波を受信してどうしたの?」
妻「私、面白いこと思いついちゃった!」
夫「なに?」
妻「今、擬人化って流行ってるでしょ?」
夫「うん」
妻「ブラックキャップを擬人化したら面白いんじゃない?」
夫「たしかに……やってみたら?」
妻「うん!」カキカキ
夫(無駄に絵は上手いんだよな……)
ブラックキャップ『ゴキブリを駆除して欲しい? だったら一千万円いただきますぜ』
夫「黒男だこれ!」
妻「これを漫画にすれば、大儲けできるかも!」
夫「手塚プロダクションとアース製薬を同時に敵に回すつもりかよ」
妻「相手にとって不足なしよ」
夫「スパルタの兵士並みの闘争心だな」
妻「足利尊氏?」
夫「頼朝や家康と比べると、何したかイマイチ印象にないんだよな」
妻「で、アシダカグモがどうしたの?」
夫「ちゃんと聞き取れてるじゃん。アシダカグモってゴキブリをよく駆除してくれるらしいんだ」
夫「ネット上だと“軍曹”だとかいって崇められてる」
妻「そうなんだ」
夫「そうなんだよな。ものすごく偉いイメージあるけど下から数えた方が早い」
妻「個人的には大佐と互角ぐらいのイメージなんだけどねえ」
妻「少なくとも少尉なんかよりずっと強そう! 少尉ってなんかしょぼいもの! 私でもなれそう!」
夫「少尉の方々に失礼だから謝れ」
妻「ごめんなさい」
妻「あら?」
ワサワサ…
夫「君からひっぺがしたゴキブリホイホイにアシダカグモが引っかかってる!」
妻「蜘蛛なのにゴキブリホイホイに引っかかるなんてドジな子!」クスクス
夫「人なのに引っかかったのもいるけどな」
妻「どれ、取ってあげる」ムンズッ
妻「ほれ、お行き」サッ
ワサワサワサ…
夫「よく素手で掴めるな……」
妻「私が素手で触れないのは幽霊くらいのもんよ」
妻「ホウ酸! 知ってる! スライム作るやつ!」
夫「スライムの材料はホウ酸じゃなくてホウ砂だぞ」
妻「えーっ!!?」
妻「今のが今日一番の驚きだったわ……」
夫「俺もその発言に今日一番驚いたよ……」
夫「不衛生だし、見るのも気持ち悪いし」
妻「うん、そうね。近所の人とも相談してみるわ」
…………
……
主婦「ゴキブリホイホイに引っかかっちゃうなんて、奥さんらしいわ~」
妻「でしょ~?」
主婦「でも、うちも最近ゴキブリがよく出るようになってきてね」
主婦「昨夜なんて二匹も見ちゃって」
妻「……む」
妻「だったら私は三匹見たわ!」
主婦「見栄張るとこじゃないわよ!?」
妻「……む」
妻「うちのゴキブリは一匹いたら60匹はいるわ!」
主婦「だから見栄張るとこじゃないって」
主婦「市販のゴキブリグッズじゃいまいち効果ないから、今度駆除業者でも呼ぼうかと思って」
妻「駆除業者?」
主婦「このところ近くに開業した業者がいるのよ」
妻「ふうん……」
夫「駆除業者をねえ……」
妻「そうなの。うちも頼んでみようかな」
夫「みんなが頼んだら、駆除業者は大儲けだろうな」
夫「もしかして、駆除業者が自分でゴキブリばら撒いてるんじゃないか?」
妻「そんな回りくどいことしないでしょ~! 育てるのもばら撒くのも大変じゃない!」
夫「だよなぁ、アハハハハ!」
ゴソゴソ…
夫「ん? 外から物音が……」
業者「そうすれば市販のグッズじゃ頼りにならないと俺に電話をしてきて」
業者「大儲けできるって寸法よ!」
夫「ホントにやってた!」
妻「こんなあからさまなマッチポンプ目撃するの初めてだわ!」
妻「このところ、この近所にゴキブリが増えたのはあんたの仕業ね!?」
業者「む!」
業者「ええい、バレちまったからには仕方ない!」
業者「二人まとめて殺してやる!」ジャキッ
夫「ナイフ!?」
妻「散々回りくどいことやってたくせに、バレたとたん直線的になったわ!」
妻「あ、あなたっ……!」
夫「早く家の中に逃げ込め! 警察を呼ぶんだ!」
妻「だけど……」
夫「いいから早く! こいつは俺が食い止める!」
業者「死ねええええええええええええっ!!!」ダッ
夫「くっ……!」
妻「きゃああっ!」
――バキィッ!
業者「ぶげえっ……!」ドサッ
夫「……え」
妻「……へ?」
紳士「お二人とも、大丈夫ですか?」
夫妻「誰!?」
夫「あ、どうも」
夫(って名刺裏返しじゃんか)
紳士「間に合ってよかった。こいつはすぐ警察に突き出してきます」
紳士「それとここら一帯のゴキブリは全て私が無償で駆除しますのでご安心を」
夫「ありがとうございます!」
妻「でも、どうしてそこまでしてくれるんです?」
紳士「では!」シュタタタタッ
夫「あっ……」
妻「行っちゃった……」
紳士「いでっ!」ズテンッ
夫「あっ……」
妻「こけちゃった……」
妻「なんて人?」
夫「えーっと……足高さんだって」ピラッ
夫妻「……」
夫「これってもしかして……」
妻「アシダカグモの恩返し……?」
夫「やっぱり助け合いって大切だな……!」
~おわり~
ブラックキャップ擬人化はわりとアリだと思う
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どうも、日本人難民管理人のナオコ(男)です!
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